コンペとは「夢」を集う「場」である。今回、850案もの「夢」が集った「場」に立ち会えたことを、喜びに感じているし、後悔していない。そして私は今でも鮮明に覚えている。全ての案を審査会場にならべ、全てに目を通した瞬間、私の心は既に決まっていたことを。その提案からは漲る「夢」が溢れていた。誰の提案なのかなど関係ない。ただ私はこの「夢」を現実の世界で見てみたい。心からそう思った瞬間を今でも忘れない。ここで見出された「夢」は、建築界にとっても素晴らしい「夢」であると確信している。地球上の何処かにこの「夢」を実現させる活動に心から参加協力をお願いしたいと切に願う。
中山 英之
建物の計画案を広く募る建築設計コンペは、僕たちのような“駆け出し”の設計事務所をひろい世界に誘ってくれる「大きな扉」のような存在です。コンペそのものが年々減っていく中にあって、「六花の森 Tea House Competition」は、ある地方都市を代表する企業とひとりの建築家から全国に発信された、とても夢のある投げかけでした。細かい設計条件を廃し、応募者の実績を全く問わない型破りな募集要項には、主催者の心意気がみなぎっていました。そのコンペに勝つことができたことは、それだけでも新しい世界を開いてくれるに十分な出来事だったのです。実際、全国どこにいってもあの建物のことを尋ねられました。だから、実現は見送られてしまいましたが、あの時投げかけられた心意気がそのことで色褪せてしまうことはなかったと、僕はずっと思っていました。今回、京都を拠点に活動するグループから「実現を探る活動をはじめたい」というメールを受け取った時にも、思ったのはそのことでした。実施コンペの中止が『よくあること』なのも、残念ながら事実です。だからこそ、あの時全国に投げかけられた心意気が、思いがけない場所から打ち返された事実に、挑戦的なコンペの存在価値を叫ぶもっと大きな声を感じずにはいらせません。そんな気持ちで今、9割方完成していた実施設計図にまた向き合っているところです。